Vol.4 | ブランディングプロデューサー

「ここから未来、探求すべきは “日常的な暮らし”の中にある真の豊かさ」井本 喜久 (後編)

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“過去から未来が一本の線で繋がった

天啓のような新事業”

バーチャル農学校を考案したのは、一昨年父親が他界した時のことです。残された田んぼの世話を依頼しにいった農事組合法人で聞いたのは、「農業従事者は年寄りばかりで70歳はまだ若手。倒れれば継承者がいなくて耕作放棄地は増える一方」という話。状況はある程度知っていましたが、予想を上回る事態に危機感を覚えました。

危機感の根源を探ろうと、日本の農業の現状についていろいろと調べてみました。すると、日本で生産された農産物の売上のほとんどは、ほんの一部の大きな農家さんたちが生み出しているもので、極小規模の農家さんが担い手不足で耕作放棄地を増やしたとしても、僕らの食卓にはほとんど影響が無いという事実に辿りついたんです。これは逆にチャンスだと思いましたね。耕作放棄地を利用して、新しい価値観で新しい農業をやる若者たちが生まれてきたら「日本の食の現場に革命が起きる」と思いました。

それで考えたのが、オンライン農学校という新事業でした。新しい「農」の文化に特化したメディアを作って、日本の農業の現場をデザインし直そうと考えたんす。農家の息子として生まれ、農業の大学に進んだけど、広告業界で働き、独立してブランドづくりにハマって、飲食店や食品メーカーの事業を興してきた。そして今、農の事業をまた新しく興した。自分の過去を振り返ると、紆余曲折しながらも一本の線で繋がっているように思います。

 

“風向きを変えようとするのではなく、

自分の身体の向きを変える”

これから先の人生を悩むんだったら、まず目を向けるべきは「暮らし方」です。自分はいったい何者なのか。どんなことにワクワクするのか。本当にやりたいことだけを研ぎ澄まして考えていく。たとえお金が稼げる稼げないに関係なく、何をやって暮らしていきたいのか。それを考えていくと、誰かのせいにするのではなく、自分が動けばいいだけなんだ、というのが見えてくるはずです。風向き変えたいのなら、自分の身体の向きを変えればいい。

農業って、まさにその究極にある暮らし方なんだろうと。

働くことと、食べることと、創ることとが一つの線で繋がっているのが「農」なんです。だから僕は次世代に、農村に住んで、暮らし方についてもう1回見直してみようよ!って呼びかけていきたいんです。きっと反応してくれる人はぼちぼちいると思うんですよね。都会で疲れて働いている人は、例えば車を飛ばして田舎に行ってみてほしい。そして自然に触れて注意深く五感を研ぎ澄ませてみると、それまで「何にもない」と思っていた田舎の風景が、そこに暮らす人々の手によって隅々まで整備された実に美しい場所なんだと気付くことでしょう。

もし、それに気づくことが出来たら、その人はきっと田舎で農的な暮らしをしていくセンスを潜在的に持っている人なんだと思います(笑)自分自身の暮らしも、例えば料理、例えば掃除、例えば植物を育てる、などを丁寧にやってみると、何か気持ちが前向きになることを実感できることでしょう。

丁寧な暮らし、それは変な宗教的なお話とかではなく、お洒落や身だしなみと一緒だと僕は思うんです。誰かのお家に行って、行き届いたキッチンや庭を見れば、そこの住人がとても健康で素敵な人生を歩んでいるんだろうなと想像できるわけです。つまり、よほどのジャングルとかでない限り、一見、大自然にみえる田舎の風景でさえも、そこに暮らす人々が必ず農的な何かアクションをして、その農村を良くしようと努力しているんですよね。農のオモシロさを学ぶというのは、そういったことをひとつひとつ気づくことから始まるんですね。

「農家さんには100人いたら100通りの哲学がある」とは言え、僕自身もまだまだ農のことを学び始めたばかり。

いろいろな農家さんに出会っていって、その人の暮らし方、働き方などを見てみると、昨日までカッコいいと信じていたものが実はすごくかっこ悪いと思ったりする。例えば農家さんの中には「2週間以上も自分の財布を見てない。」という生き方をしている人がいたりする。それを聞くと、カッコイイなと思えてくる(笑)そういう、素敵な生き方をしている先輩やその周りで生きている人たちから学べることが無限大にあるんです。

農家さんには100人いたら100通りの哲学があります。必要なのは、やはりいろんな価値観をもったクリエイターたちに出会いまくることだと思うんですね。農家さんって、とてもクリエイティブな人が多いです。むかし、農民のことを百姓と呼んでいた時代がありました。百姓ってのは百の姓といって、名前がたくさんある、つまりいろんな顔を持っているという意味なのだそうです。そのくらい衣食住にかかわるすべての事を手づくりして生み出していく。まさにスーパークリエイターなんですよね。

バーチャル農学校「The CAMPus」では、楽しくカッコよく働いて、しかもしっかり利益を上げているスゴ腕の農家さんたちを“教授”として紹介しています。コンテンツを作る上で気を付けたのは、情報が右から左へ流れるだけに終わらないこと。単に技術を伝えるのではなく農家さんの人となり、考え方・生き方まで丸ごと伝えて、生徒であるユーザーさんたちが心から学べるハートフルな内容にしています。

また発信者である教授(スゴ腕農家さん)とユーザー(生徒)を“学び”で結びつけていくために、ナビゲーターという存在の人々を用意していることも大きな特徴です。通常、「サービス」というものは提供する側とされる側というのがあって、される側(お金を払う側=ユーザー)が偉い立場になりがちですが、真ん中に“学び”を組み込むことによって上下関係がなくなるんです。教授と生徒ができるだけ親しい感じでコミュニケーションできるような、学校メディアとしてやっていくことで、次世代の新型農家をどんどん誕生させていけたらなと思っています。

当面の目標(むこう3年間くらい)は、まずThe CAMPusの会員数(生徒数)を10万人の規模にしたいです。10万人というのは、社会で「ムーブメント」と呼べる最小単位だと思ってるんです。その中で、本当に田舎に行って新規就農する人の数はわずかかもしれません。それでも10万人という人々が「農業ってオモシロいしカッコイイよね」という気持ちになってくれる状態というかプラットフォームのようなものがあれば、その後、それをつかって、いろいろな農ライフのコミュニケーションを広げていけるわけですから。

“都会 or 農村の

境界線を取り払うスーツ”

 

僕が今回、オーダーさせてもらったスーツは、プレゼンや打合せなどのビジネシーンにきちんと使えながらも、そのまま軽く畑仕事もできちゃうような“都合のいい”一着。体を動かして働く、いわゆるブルーカラーが現場でホワイトカラーの象徴“スーツ”を着ていたら面白い、という発想でした。

可動性に拘って仕立ててもらったので、動きやすさは申し分なし。かといってルーズにならず、スーツの端正さをきっちり保っている点はさすがです。肩肘張らない感じが好きなので、素材は迷わずデニムをチョイス。藍染の深い色合いもカジュアル過ぎなくて気に入っています。

やはり服装が決まれば気分がいいし、仕事の能率も上がる。こんなスーツがあれば、ボーダーレスな働き方が実現できます。

井本 喜久
ブランディングプロデューサー
老若男女に関係なく全ての仲間から“イモッチャン”という愛称で親しまれている元気の塊キャラである井本氏。「コズ(株)」の代表取締役として企業プロモーションを多数手掛けながら、2012年に「ブルックリン・リボン・フライ」を設立。表参道などに店舗を展開。2016年、新宿駅屋上にて都市型マルシェ「The CAMPus」を期間限定で開催し、2017年末にはバーチャル農学校をスタート。そんな彼の独創的で面白い働きかたについて考えを伺った。