Vol.5 | 写真家「レスリー・キー」マネージャー

「個に軸足を置くことで求める、自分らしい“働きかた”とは何か?」鈴木 一成 (後編)

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“組織とのダブルバインドを手放して”

「SUPER SONIC」を10年程やっていた訳ですが、それだけ長いとクセがつくんです。ここまではウチの仕事、その先はヨソって線引きが出来上がるんですよね。もっと突っ込んだ事をした方がいい場合でも、「労力もお金も掛かるから、そこまでしなくても」と保守的になっていきます。

また、会社をやっていると対外的に足踏みを揃えなくてはなりません。例えば、A というカメラマンと或る会社は上手くいってる。 だけど、B がその同じ会社と揉めたとしますよね。僕は両方のマネージャーだから、仮にB が正しいと思っていても擁護することは出来ないんですよ。その件と関係のないA の仕事も無くなっちゃいますからね。

当時は20名くらいのアーティストを抱えていて、そんなトラブルは日常茶飯事でした。まあまあ…と間に入って仲裁役に徹していたのですが、さすがに辛くなってきますよね。自分の考えがなくなっていくじゃないですか。本当はそう思っていなくても、別の人の立場もあるから穏便に振舞って、間を取る生き方しかできなくなっていることが、とにかく嫌だったんです。

–応援してくれる人たちに助けられた

その気持ちが決定的になったのは、レスリーのある個展がきっかけです。個展での作品が物議を醸し、同時期に撮影していたクライアントや代理店など、取り巻く環境が大騒ぎになったことがありました。

ちょうど仕事でも大きなキャンペーンを撮影したばかりで、街中のビジュアルやCMなども絡んで展開する連動型広告だったので、最悪全てストップする可能性もある状況に陥り、どんなに頑張っても私が保証できる金額ではなかったので、初めて生きる気力を失いましたね。

当時、代理店に呼び出された時のことは今でも鮮明に覚えています。20mくらいの長い長いテーブルに先方の経営陣がズラリと並んで、僕はその向かい側に一人。さすがにその光景には参りました。

ですが、そんな中でも僕たちを応援してくれる人が数多く居たんです。その一人ひとりの声を聞いた時に、どこかで「このピンチを乗り越えられるかも」と思っている自分が居ました。

 

“価値観の変化により、仕事の在り方を見直す”

こんなに大勢の人達が、大したことない僕の発言に騒めくのを見て、「あ、世の中を変えるのは会社じゃないんだ」 と思いました。「組織とか大きなものが変えているんじゃなく、世界を変えるのは個人なんだ」 と。それまでは逆だと思っていたんですよ。発信源は会社で、それを個人に広めるものだと思っていました。しかし、それは違うと気付いて、そこで改めてアーティストは凄いなと思い知りましたね。“個” の発信力があるということの偉大さにも気付かされた瞬間でした。

一緒にやってきたメンバーは大好きだったけど、会社をやる以上制約が発生しますよね。それより「1人のアーティストときちんと仕事がしたい」 と思い、事務所をたたんでレスリー個人のマネージャーになることを決意しました。

レスリーは、親でもあり、兄弟でもある存在です。仲が良い時もあるし、喧嘩して口をきかない時もあります。それでこそ家族のように和気あいあいとした感じではないけど、僕の人生の一部です。空気みたいだから普段は何とも思わなくても、ふとした瞬間に有難みを感じますね。

モノで例えるなら、もっと新しくて性能の良いものはあるんだろうけど、レスリーは僕を上手に使ってくれます。相性っていうんですかね、その人にしか分からない良さがあるのかも知れません。オーダースーツじゃないですけど、他人が着たら似合わなくても、その人にはバッチリ合っているみたいな。

“自分とともに成長していく、パーソナルなサポート”

レスリーは無茶苦茶なことをいっぱい言ってきますよ。(笑) ある日突然、「来週、カンヌ映画祭に行きたい」 と言われたりして、でもスケジュールでは他のタレントさんの撮影が入っているんですよね。(笑)普通なら行かせないと思うんですけど、僕は何とかスケジュール調整して都合をつけます。

仕事を選ぶときも、儲かるけどあまり食指が動かない案件と、何日掛かっても二束三文にしかならないけど、トライしたいもの。どっちを受けるか、揺れることが日々あるのですが、なるべくどちらもやれるようにするのが僕の役割ですね。

経営者だった頃は、迷いなく儲かる方をとっていたのですが、アーティストはビジネスとは関係ない一面がある。そういう人をマネージメントしているのだから、商売だけじゃなくて世の中に何かを伝えることも大事だなと思っているので、両方ともバランスよく叶える方法を今は練習中です。

マネージャー業はかれこれ20年近くしていますが、そういう意味で1人のアーティストをまるごと理解してサポートできるようになったのは、ついこの頃。やっとゼロに立てた気がしているんです。

鈴木 一成
写真家「レスリー・キー」マネージャー
数多の著名人の撮影を手掛ける、人気フォトグラファー、レスリー・キー氏。その華やかな活躍の裏には、この人の存在があると言っても過言ではないだろう。古くからレスリー氏のマネージャーを務め、また自身の事務所「Present」を設立した鈴木一成氏。経験により培われた独自の仕事観に迫った。