Vol.12 | 「カメラを止めるな」主演俳優

「大切なこと以外は諦める。生きることは、諦めること」濱津 隆之

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2018年の流行語大賞にも選ばれ、今年を代表する作品となった映画『カメラを止めるな』、通称カメ止め。小さな映画館から人気に火がつき、たちまち社会現象となったこの作品で主演を務めた濱津 隆之(はまつ たかゆき)さんは、なんと今年の秋までバイトを掛け持ちし、無名の中オーディションで主演を勝ち取ったという夢追い人!2018年劇的に生活が変わったという濱津さんに、今年1年の振り返りと仕事への信念を伺った。

撮影:上甲 尚弘 取材:森本 萌乃 (FABRIC TOKYO)

「こんな形で戻ってくるとは・・・なんか、泣きそうです。」

12月某日、早朝。「カメラを止めるな」の最初の上演が始まった映画館・ケイズシネマの客席に腰掛け「はたら区」の写真撮影が始まると、濱津さんからこんな一言が。映画祭の授賞式をイメージして仕立てられたブラックスーツは、濱津さんのスタイルの良さを一層際立たせ、役者ならではのオーラを増幅させていたが、普段の穏やかで自然体な人柄は変わらない。

映画公開以来、取り巻く環境がガラリと変わったと話す濱津さん。どこまでも謙虚で、インタビューの一つ一つにも言葉を選んで慎重に答えてくださる姿からは、その変化を喜び、戸惑う様子が垣間見えた。

–嬉しい瞬間がずっと続いた2018年

電車で移動していても、突然画面に自分が映ったりして、なんか変な感じです。ぼーっと客観的に見てしまいます。サインもようやく慣れてきましたが、最初はただの著名に近くて、これでいいのかなって。ケイズシネマさんにも、プライベートで映画を観に来ることはありましたが、今年は舞台挨拶やイベントでお邪魔するようになって、こうして年末に撮影でもまた来れて。

これまで色々なことに手を出しながら、ようやく感じられた嬉しさなので、自分の周りに起こったそうした一つ一つの出来事を含めて、今年は本当にいい一年でした。

–芸人、DJ、役者。昔から、とにかく人前に立つ仕事がしたかった

昔から人を笑わせることが好きでした。大学4年間は学園祭の運営を担当する学園祭運営局の企画班に所属し、それが楽しくて。漠然と「人を笑顔に、笑わせることがしたい」という想いが強かったです。なので、卒業後の進路は自然と「お笑い芸人」の道へと決まっていきました。

卒業後は某有名お笑い芸人事務所の養成所に入り、養成所で意気投合した仲間とコンビを組むことになりました。昔から、これで食っていけたら良いなって思っていたことが、芸能か音楽に関することだったんですよね。芸人としては約2年ほど活動した後、どうしても音楽への興味を拭いきれず、芸人の世界から音楽業界へと転向をしました。相方には、迷惑をかけるかたちで辞めてしまったので、申し訳なかったです。ただ結局、音楽も結局鳴かず飛ばずで、自分には才能がないんだと痛感しました。

「カメラを止めるな」との出会い

30歳になった頃、俳優の道へと足を踏み入れました。最初はエキストラ、小劇場の舞台で役者としての経験を積んでいたのですが、徐々に映像の方にも活動の場を広げていきたいと思うようになりましたね。そんな時にENBUゼミナールという俳優&監督養成スクールが主催する「CINEMA PROJECT」に出会いました。当時は、この出会いが映画『カメラを止めるな』の主演抜擢に繋がるとは思いもしませんでした。

–「最初、台本を読んでも全然意味が分からなかったです。(笑)」

映画が完成して、プロジェクトの完成披露の場としてケイズシネマさんで6回のみの限定上映が始まったのですが、そこから状況が一転しました。(限定上映後、ケイズシネマでは「カメラを止めるな」を約80回上映、上映回が全て満席で埋まった作品は、15年というケイズシネマの長い歴史の中でも初めてだそう。)

ただ撮影中は、僕含めみんな、こんなに人気がでるなんて思ってもみなかったです。観た方は分かると思うのですが、構造上複雑な作品なので、本を読んでも全然よく分からないんです、笑。撮影期間も8日間と短かったので、とにかく必死でしたね。必死だからこそ、みんなで作っているという感覚はありました!

「カメラを止めるな」の出演以来、有難いことに向こうから出演依頼がくるようになりました。これまでは自分でオーディションを受けることでしか仕事を頂いたことがなかったので、もう奇跡ですね。この作品をきっかけに、続けていたラブホテル清掃員のバイトをようやく卒業し、役者一本でなんとか活動できるようになったんです。もちろんいつも不安は消えませんし、前向きでポジティブなタイプではないですが、アルバイトを辞められたのはやっぱり嬉しいですね、笑。

–何かを諦めると、大切なものが見えてくる

役者にたどり着くまでいろんな道を通って来ましたが、芯だけはブレないようにしています。「人前に立つ仕事がしたい」という芯は大学時代からずっと変わらないですし、例えば最近だと、自分が面白くないものにはNOと言えるようになったり、下手な気遣いをしなくなりました。

生きることって、諦めることだと思うんです。諦めないで色々挑戦することも大切ですが、本当に叶えたいことを叶えるために削ぎ落としていくことが僕にとっては大切でした。10年後に何をしているかよりも、今何をするべきか、考えすぎずに心に従って取捨選択していくのが僕には合っているみたいです。

演技の面でも、いい意味で諦めることは大切だと感じます。以前演技のワークショップに参加した時に、力んで演技するよりも、いつも通りの自分で挑んだ方が評価がよかったんです。何もしなくていいよ、自然体の方が君面白いからって。僕元々舌足らずなんですが、それも面白がってくれる人がいることを知って、「あ、これでいいんだ」って。

これから役者としていろんな役に挑戦していきたいですが、こういう大切なもののための諦めや削ぎ落としの考え方はずっと根底にあると思います。

–このスーツで、いつか映画祭に出られるように・・・

僕にとってスーツは願掛けのようなものです。今回作ったスーツ、いつか映画祭や授賞式で着れるようになりたいですね。ブラックスーツは流行り廃りもないので、着られる限り長く着続けたいです。

ジャケットの裏に文字を刺繍できるということで、迷わずACTORを選びました。かっこよく仕立てて頂き、ありがとうございました。

濱津 隆之
「カメラを止めるな」主演俳優
1981年埼玉生まれ。社会現象にもなった2018年6月公開の映画「カメラを止めるな」で主演を務め、一躍話題に。味のある風貌と肩の力の抜けた不思議な魅力は、多くの映画・芝居関係者を虜にする。この作品をきっかけにアルバイトを辞め、現在はフリーの役者として活動中。