
水と暮らす人々が紡ぐ毛織物
水とともに紡いだ100年の歴史


岐阜県大垣市は、豊富な地下水の恵みにより「水の都」と呼ばれています。
世界三大毛織物産地でもある尾州地方は、西からは揖斐川、東には木曽川・長良川の一級河川が流れています。
時間をかけて浄化された伏流水は大垣の街のあちこちから湧き出し、水の都たる所以ともなっています。


そんな水の都・大垣市で、三甲テキスタイルは1914年に創業しました。
ウールを中心とした毛織物を扱う三甲テキスタイルは、紡績、染色、織り、加工までを行う、大規模な一貫生地工場です。




良質なウール生地を作る上で欠かせないのが「水」です。
ウール生地の質は水の硬度による影響を受けやすく、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル含有量の多い「硬水」は、発色が悪くなったり、生地を硬くすることもあります。
一方、大垣の水はミネラル含有量が非常に少ない「軟水」であることが特長。


三甲テキスタイルでは創業以来、製造工程で工業用水は一切使用せず、工場の敷地内にある給水ポンプで地下150mから組み上げた地下水をふんだんに使用しています。
自然の軟水を使って生み出されたウールは、ヌメリ感のある艶、深みのある色、しっとりとした柔らかさを併せ持ち、どこにもない独自の風合いを醸し出します。

他の土地・他の水では同じ風合いにはならない、大垣の地でしか作れないウール。
三甲テキスタイルのものづくりは、100年の歴史で培われた技術と大垣の水とともに、紡がれてきました。

水と街


大垣市には川や水路が巡り、たくさんの井戸があります。大垣城近くの八幡神社には、大垣の湧水として市民の憩いの場となっている井戸があります。


井戸には絶えず街の人たちが訪れ、調理用や飲料にする水を汲んでいました。
湧水は全く癖がなく、優しい口あたり。特にお茶を淹れると、他の水との違いがわかりやすい、と地元の方が話してくださいました。
大垣の水が、街の人たちの生活に根ざしていることがわかります。


大垣のおいしい水でしか生まれない、ミネラルウォーター・大垣ラムネ


水の美味しい場所には酒蔵があります

城下町大垣のシンボルである大垣城。天文4年(1535年)に創建され、関ヶ原の戦いでは、西軍・石田三成の本拠地となりました。 1945年7月に戦災で焼失し、1959年4月に天守が再建されています。

水と暮らす人々
毛織物工場が多くある尾州地方では、独特の喫茶店文化が育ってきました。その起源はガチャマン景気(※)に沸いた昭和30年代前半頃。
生地工場はとにかく大きな音が出るため、工場ではゆっくり商談ができません。そこで、多くの人たちが工場近くの喫茶店で商談をするようになりました。
そこから、尾州地方の喫茶店は独自のサービスや文化を育てながら、地域に根付いていきます。
※:工場の織機を動かす「ガチャン」という音に由来し、「織機を稼働し『ガチャン』と音がすれば、万と稼げた」と謳われたことから


大垣市には、地元の人たちにずっと愛されている喫茶店「サンパウロ」があります。大垣の水を使い、ネルドリップで丁寧に淹れたコーヒーが人気です。
しっかりとした味わいがありながら、優しい口あたりで後味はすっきり爽やかな一杯。



マスターの箕浦さんは、コーヒーを淹れるため、毎晩お店近くの八幡神社に湧水を汲み行っているのだそう。
「みんな昼間に水を汲みに来ているけど、うちは夜に行くようにしています。夜だと人も少なくて汲みやすいし、水も静かで落ち着いた味になるんですよ。」と話してくださいました。街の人たちの声や昼間の賑わいさえ水に反映されるというお話に、水とともに生活するこの土地ならではの暮らしを感じます。

大垣市には他にも、湧水を使った名物がたくさんあります。湧水から作った氷と一緒にいただく水饅頭


取材の途中で出会った美味しいベーカリー


ものづくりの技術と人の想いを紡ぐ
大垣の地の恵みにより、100年以上事業を続けてきた三甲テキスタイル。何か還元できるものはないかと考えた答えが、伝統と技術の継承でした。
国内でも希少なションヘル織機での伝統的なものづくりを続け、受け継いでいくことです。



ションヘル織機は、明治大正から昭和初期頃まで使われていたシャトル式織機で、ドイツのションヘル社の織機をもとに国内で製造されていました。
大量生産のための効率化が主流となった業界において、その姿は希少なものとなっています。
ションヘル織機は、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)に余計な力がかかりません。ゆっくりと織り進めることで糸を傷めず、織り上がった生地はふっくらとした手織りのようなやさしい風合いを持っています。


三甲テキスタイルでは、後継者不足や職人の高齢化などにより、廃業してしまった工場からションヘル織機を集め、ションヘルマイスターと呼ばれる職人とともに生地の生産を続けています。
ションヘル織機は、糸の準備をする前工程や織機のメンテナンスにも豊富な経験と熟練の技が必要とされています。

デジタルで制御されていないションヘル織機は、音の変化で不調を聞き分けるのだそう。 一人前になるのに15年、マイスターになるためには、素質と25年以上の経験が必要とうかがいました。
現在三甲テキスタイルでは、2人のマイスターと、技術を受け継ぐ3人の若手が奮闘中。
ものづくりの技術と人の想いを、未来へと紡ぎます。

これからも水と共に
尾州は世界三大毛織物産地と称されていますが、世界ではウール離れが進んでいます。 優秀な化学繊維の台頭により、ウールの需要は縮小していきました。
しかし、近年では羊毛などの天然繊維は環境負荷が少ないことから、再び注目が集まっています。


三甲テキスタイルは、着心地・見た目・機能性が揃った現代のビジネスパーソンのライフスタイルにフィットする生地の開発を得意としています。
FABRIC TOKYOでは、AUTHENTICやWASHABLE WOOL STRETCHなどの生地の企画/開発へ、一緒に取り組み、ものづくりを前に進めています。
新しい挑戦には、常にその礎となる大垣の水が共にありました。


生地を織る織機も、アップデートはされているものの、基本的な原理は何十年も変わっていません。
変わらないものづくりの礎となる水と織りの技術。三甲テキスタイルが進化を続けていけるのは、人の感性や感覚・想いがあるからだとうかがいました。
「我々が進化し続けられる要因は人。人にしか形にできないものを、これからも作り続けていきたいと思っています。」
水の都で息づく水と人の物語は、これからも紡がれていきます。


PROFILE

三甲テキスタイル(岐阜県大垣市)
1914年創業、良質な地下水を使用した独自の風合いを持つ生地を作るテキスタイルメーカー。 紡績、染色、織り、加工までを一貫して行う大規模な工場を持ち、ウールを中心とした毛織物を取り扱っています。
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